APPLICATION 1
Drug Delivery Systemなどの医療用途
現在、癌(悪性腫瘍)の代表的な治療法として、抗がん剤を用いた化学療法や、放射性治療、物理的治療(手術)が挙げられますが、最近はそれに加え、免疫治療、遺伝子治療などの研究開発も進んでいます。
しかしながら、例えば、抗がん剤治療などは副作用が強く、肝心なターゲットである癌細胞に、効率的に作用しているとは言い難い懸念もあります。そこで近年、DDS(Drug Delivery System)という治療法の研究開発が進められています。無機多孔性シリカ、量子ドット、金属ナノ微粒子、 有機高分子ミセル、リポソーム、デンドリマ-などが抗癌剤担体として検討されていますが、例えば、ミセル、リポソーム、デンドリマ-は、包埋できる薬用量が少なかったり、無機多孔性シリカなどは毒性があったり、人体内においては生分解性がないことなどが、問題視されています。そこで MOF を抗癌剤担体として応用する試みが検討されています。MOF を用いることにより、大きな薬容量で、静脈中でドラッグリリースができるようになり、生分解性を有している種類もありますので、ドラッグリリースを制御できる可能性があります。
MOF は、他の担体と比較して、多様な形態、大きさ、化学組成による多機能性と、刺激応答性ドラッグリリースが、制御できる可能性があります。抗癌剤を体内でリリースする刺激としては、pH変化、磁性、温度、光、圧力などの変化、及びそれらの刺激の組み合わせなどが挙げられます。実際に、MOF にシスプラチン、カフェインなどの薬剤を包埋させ、in vitro, in vivo の条件下での研究開発も進んでいます。
なお、この DDS としては、赤外光領域で反応する量子ドットなどを用いて、体外から赤外線を照射することによって、量子ドットから熱を放射して、癌細胞を攻撃するような、光治療の手法もあります。弊社では、量子ドットの合成もしておりますので、このような赤外線応答型量子ドットを用いた手法も検討いたしております。
APPLICATION 2
様々なガス、気体分子の分離、吸着、貯蔵
金属有機構造体(MOF)は、非常に多孔質な材料ですので、特定の気体分子を捕らえるために設計することも可能であり、様々な気体の分離、精製が可能となります。少量でも大量の気体を捕捉でき、1g の構造体でも、気体を吸着する表面積は、サッカー競技場並みの大きさになります。この特性を生かして、例えば、地球温暖化の原因にもなっている CO2 や、メタンガスなどの回収、貯留などが検討されています。
他にも、燃料電池自動車に使用する水素の貯蔵、エチレンガスの分離、貯蔵による食品用包装への応用などがあります。さらに、硫黄系、窒素系の有毒ガス、水分の吸着、分離、貯蔵など、様々なガスに対しての用途が提案されています。
APPLICATION 3
砂漠のような乾燥環境から水を得る
これらの MOF の特性を活かすと、砂漠のような、極端に乾燥している地域でも、空気中のわずかな水分を集めることができます。今後はさらに、どのMOF が最も効率よく水を吸着するか等の研究開発も行う必要があります。
弊社では、MOF 及び、それらの複合材料の検討も含め、このようなデバイスの研究開発を、継続してまいります。
APPLICATION 4
排水中からの有害金属、有害金属イオンの回収
水や排水中の重金属は、生分解性があるわけではなく、土壌や生物の体内に蓄積されますので、環境を破壊し、生物も深刻なダメージを受けてしまいます。よって、このような汚染水から、重金属を取り除くことの研究開発はとても重要です。MOF は、その形状と多孔性ゆえに、気体、ガス以外にも、様々な金属、金属イオンを吸着することが良く知られています。この特性を応用することによって、水中、溶液中から、特に鉛、カドミウム、水銀などの毒性のある金属イオンを取り除く研究が進められています。
APPLICATION 5
固体触媒
硫酸や塩酸などは、環境、化学合成装置などに対して、負荷が高い液体の触媒です。その点、固体触媒は、それらの液体触媒と比較すると、化学反応後に、ろ過などの手法を取ることによって、その固体触媒を取り除くことができます。再使用できる可能性のある、先端材料として、現在、多くの研究開発が行われています。
MOF も、固体触媒の効果があると言われており、その性能が期待されています。C-C 結合から C-O、C-N 結合への変換、酸化、付加、水素化反応、エステル化などの触媒作用や、再利用時においての劣化の改良などが、検討されたりもしています。また、液中の反応に限らず、気体、固相、及びそれらの界面においての触媒活性なども研究されています。MOF のトポロジー、表面官能基、孔のサイズなどを変えることにより、触媒活性が変化することが分かっており、また pH や温度に対しての安定性も重要です。
固体触媒は、ヘテロ触媒とも言われています。
APPLICATION 6
電池、キャパシタ用電極、電解質
MOF は、燃料電池や空気電池の電極に応用することなども、検討されています。特に、これらの電池のカソード電極は、酸素の還元反応が重要となってきますが、通常この反応には、白金担持カーボンなどの材料が、使用されています。しかしながら、白金などの貴金属元素は、資源の枯渇、コストの高さなどが、問題点になっています。この点において、例えば、MOF を燃焼させ炭素化させたような材料が、類似の触媒作用を有していることが報告されており、その研究開発が活発に行われています。
一方で、リチウムイオン電池の電極、固体電解質としての応用も検討されています。これにおいても、炭素化した MOF、及び MOF 由来の酸化物、MOFそのものも、材料として検討されています。さらに、電気化学的キャパシタの電極材料としても検討されています。MOF を電極としたキャパシタは、ウルトラキャパシタとも言われており、特に、その巨大な表面積が、キャパシタの電極において、有利に働いていることが報告されています。
APPLICATION 7
センサー
MOFは、固体センサーにも応用することができます。特に、気体中のアルデヒド、アルカン、トリメチルアミン、アンモニア、硫化水素、一酸化窒素、サリンなどの神経毒の他、種々の毒性ガスなどを検出することができるセンサーとして期待されています。また、気体中だけではなく、水中でのセンサーとしての応用にも期待されています。発光、電気化学的変化、色が変化するなどの現象を応用するセンサーとなります。
APPLICATION 8
人口光合成、光触媒
多くの MOF は、絶縁体で電気を流さず、可視光を吸収しませんが、もしMOF が電気を流し、光エネルギーを吸収するような、半導体としての特性を示すことができれば、高い比表面積を利用した触媒や、太陽電池などの、エネルギー変換材料への応用が可能になるため、現在、半導体特性を持つ MOFの開発が求められています。MOF の光吸収は、主として、その有機部位である有機リンカーに由来します。このため、電子状態が精密制御された有機分子を設計、合成し、架橋性有機リンカーとして用いることで、MOF の光吸収特性や、光照射下での酸化還元特性などを、任意に制御することが可能となります。加えて、MOF では、有機リンカーと金属酸化物クラスターが、分子レベルで隣接し配位結合しているため、これらのユニット間での電子移動に基づく、ユニークな光機能性の発現も期待できます。このような特性を応用して、MOF を、光触媒材料やトリエタノールアミンなどの、還元反応用犠牲剤も併用して用いることにより、人工光合成用材料として応用する研究も、進められています。
APPLICATION 9
溶液中からの染料色素などの吸着、分離
大気中の特定のガス分子や、溶液、水中の金属イオンだけでなく、水溶液中の有機色素、染料などの分離、除去などにも、MOF が使用できることが報告されています。MOFの固有の微小な多孔性構造と、3Dマトリックスのメソ / マクロポーラス構造の両方が、様々な有機色素と、その混合物に対した、そのする優れた吸着特性に寄与して、メチレンブルーなどの色素を、吸着することが報告されています。